妊娠糖尿病と妊娠高血圧症候群は、妊娠中に注意が必要なトラブルです。
【妊娠糖尿病とは】
妊娠中に女性が糖尿病(高血糖)を発症する疾患です。最初は、なにも症状も出ないことがあります。進行すると、過度の喉の渇き、発汗、および頻尿に気付く場合があります。 妊娠糖尿病の原因 妊娠すると血糖値が上がりやすくなります。
糖代謝異常というのは、すい臓で作られるインスリンというホルモンの量や働きが不十分となり、血糖の調節がうまくいかなくなった状態です。インスリンは血糖を下げる働きがあります。妊娠すると、胎盤からでるホルモンの働きでインスリンの働きが抑えられ、また胎盤でインスリンを壊す働きの酵素ができるため、妊娠していないときと比べてインスリンが効きにくい状態になり、血糖が上がりやすくなります。
このため、妊娠中、特に妊娠後半は高血糖になる場合があり、一定の基準を超えると妊娠糖尿病と診断されます。
危険因子には、インスリンの分泌または機能の障害、30歳以上の妊娠、糖尿病の家族歴、肥満、多嚢胞性卵巣症候群の病歴が含まれる可能性があります。 妊娠糖尿病になると、妊娠高血圧症候群などの合併症が起こりやすくなり、胎児が生まれる前から肥満の状態となり難産となる、などのリスクが高まります。
また、妊娠糖尿病を発症した女性は、妊娠糖尿病を発症しなかった女性に比べて、将来的に2型糖尿病を発症するリスクが高くなるとされています。実際、ある研究によれば、妊娠糖尿病の女性は、正常血糖妊娠女性に比べて、2型糖尿病を呈するリスクは7.43倍に上ると算出されました。
ただし、その確率は個人差があり、生活習慣や遺伝的要因などが影響します。また、GDMから2型糖尿病に進展するリスク因子として、
①妊娠前BMI≧25kg/㎡
②GDM診断時のHbA1c(過去1-2ヶ月の血糖値の平均を反映するものです)≧5.6%
③分娩時年齢35歳未満が挙げられます。
妊娠糖尿病を発症した女性は、産後も定期的な検診を受けることが重要です。また、健康的な食生活や適度な運動など、生活習慣の改善に努めることで、将来的な2型糖尿病のリスクを減らすことができます。
また、妊娠中のお母さん(母体)が高血糖になることで、母体だけでなく赤ちゃんの合併症をもたらします。 妊娠糖尿病を適切に治療すると、巨大児が減ったり妊娠高血圧症候群の合併が防げたりするという研究結果があります。
これにより妊娠糖尿病を治療しなかった人と比べて帝王切開となる人が減ります。 妊娠糖尿病にかかったお母さんから生まれた赤ちゃんが将来、糖尿病を発症する確率については、具体的な数値はわかっていません。ただし、妊娠糖尿病患者さんの胎児は、お腹の中で「過栄養」状態になりやすい傾向があります。糖を必要以上に与えられた胎児は、それを代謝するためにインスリンをたくさん分泌する体質となる傾向があります。
すると、生まれてからもそのお子さんはインスリン分泌が過剰という状態が続き、将来すい臓が疲弊しやすい状況が引き起こされ、将来的に糖代謝異常を起こしやすくなる可能性があるのです。 これが、妊娠糖尿病患者さんのお子さんが将来生活習慣病やIGT(耐糖能異常:糖尿病よりは軽症)、糖尿病になりやすいといわれる理由のひとつです。
妊娠糖尿病の診断は、主に血液検査で行われます。
血糖の血液検査には以下のような種類があります。
随時血糖(ずいじけっとう): 通常の血糖検査です。普通に食事を摂取した状態で血糖を測定します。
空腹時血糖(くうふくじけっとう): 食事を取らない状態での血糖検査です。通常、朝食を食べない状態で来院していただき検査を行います。
ブドウ糖負荷検査: 糖分の入った検査用のジュースを飲んで血糖を検査する方法です。
例)50gグルコースチャレンジテスト、75gブドウ糖負荷試験 妊娠糖尿病の診断は次のように二段階に分けて検査を行います。
1.スクリーニング検査 すべての妊婦さんを対象に、妊娠糖尿病かもしれない人をひろいあげる目的の検査です。
当院では妊娠初期の随時血糖と、中期の50gグルコースチャレンジテストでスクリーニングを行います。妊娠初期の随時血糖95mg/dl以上、妊娠中期のグルコースチャレンジテスト140mg/dl以上をスクリーニング陽性と判断します。
陽性の場合、次の検査2.へすすみます。
2.診断のための検査 妊娠糖尿病の診断のために、75gブドウ糖負荷試験を行います。 2010年7月に妊娠糖尿病の診断基準が改定され、以下のような基準となりました。
75gブドウ糖負荷試験 空腹時血糖 92mg/dl以上
1時間後の血糖 180mg/dl以上
2時間後の血糖 153mg/dl以上
上記3項目のうち、1つ以上を満たすものを妊娠糖尿病と診断します。
◆妊娠糖尿病になりやすい体質が疑われる場合
・肥満
・家族に糖尿病の人がいる
・高年妊娠(35歳以上)
・尿糖の陽性が続く場合
・以前に大きな赤ちゃんを産んだことがある人
・原因不明の流産
・早産
・死産の経験がある人
・羊水過多(ようすいかた:羊水が多い)
・妊娠高血圧症候群の人、もしくは過去に既往がある人
【妊娠高血圧症候群とは】
妊婦さんに発症する高血圧症です。
場合によってはタンパク尿を伴うこともあり、放っておくと胎児にも影響が出る可能性があるため、慎重な対応が必要となります。
かつて、妊娠中期以後の妊婦さんに(1)高血圧(2)蛋白尿(3)浮腫(むくみ)といった症状のうち2つ以上が現れた場合、“妊娠中毒症”と病名をつけていました。
しかし医学研究が進んでいくにつれ、この中の高血圧だけが特化して母体や胎児に悪影響を及ぼすことが判明してきました。ここから、高血圧と診断された妊婦の方はより慎重に容体を管理する必要があるとして、2005年4月に“妊娠高血圧症候群”という病名を使うことに決定しました。
高血圧の基準は収縮期血圧140mmHg以上、もしくは拡張期血圧90mmHg以上です(診察室での計測時)。最近の日本高血圧学会で重視される家庭血圧については産科領域で用いられることも多く、おすすめですが、特別な基準を設定するには至っていません。
また、血圧については収縮期血圧160mmHg以上、もしくは拡張期血圧110mmHg 以上を重症とし、より緊急性の高いものとして扱います。
妊娠高血圧症候群のはっきりとした原因はまだ不明です。しかし、日本人の妊娠高血圧症候群で有力な原因として考えられているものに、胎盤の血管の形成異常および血管内皮の傷害、腎障害、炎症性サイトカインによる影響が挙げられています。
ヒトの胎盤は、形成過程で一度子宮側の血管(らせん動脈)を破壊して、より多くの血液が赤ちゃんに行き渡るよう、妊娠10~15週にかけて血管壁の構造を作り直すという特性があります。脳が発達しているヒトや高等猿類は、血流を十分に脳へ届ける必要があるからです。
ところが妊娠高血圧症候群のお母さんの体内では、この血管壁の再構成が不十分に終わってしまうのではないか、という可能性が示唆されています。
その結果、胎盤を経由して赤ちゃんに到達する栄養素や酸素の授受が不完全になってしまいます。母体はそれを何とかしようと、お母さんの体を高血圧状態にまでして赤ちゃんに栄養素や酸素を流そうとします。これが現在考えられている妊娠高血圧症候群の原因の1つです。
また、妊娠高血圧症候群になってしまうと子宮や胎盤で血流が滞りがちになってしまうため、赤ちゃんが栄養不足や酸素不足になってしまう可能性があります。
低栄養状態になった赤ちゃんは胎児発育不全(FGR)となり、十分にお腹の中で成長しないまま生まれてきます(低出生体重児)。
また、低酸素状態になると赤ちゃんが低酸素症になり、それが長期にわたると赤ちゃんの脳にも障害が及んでしまう恐れがあります。
治療法としては、安静と入院が中心で、けいれん予防のためや重症の高血圧に対してお薬を用いることがありますが、根本的にこの病気を治す方法は知られていません。
また急激に血圧を下げると赤ちゃんの状態が悪くなることがあり、降圧剤は医師が慎重に使用します。お母さんや赤ちゃんにとって妊娠を続けることが良くないと考えられた時には、たとえ赤ちゃんが早く生まれても妊娠を終わらせること、即ち出産が一番の治療であり、通常出産後はお母さんの症状は急速に良くなります。
妊娠高血圧症候群を確実に防ぐ効果的な予防法はまだ見つかっていません。
ただし一般的には、以下の3点は多少効果があるのではないかといわれています。
・休養と睡眠
・適度な運動
・リラックス(精神安定)
基本的には、妊婦さんは安静にしてもらうことが一番だといわれています。
体を動かす仕事に就いている場合は、できる限り早い段階で休職するほうが、妊娠高血圧症候群を予防するという面では無難です。
体を横にしていると、赤ちゃんへ届く血流の量が増加します。赤ちゃんを大きくさせるためには、横になることが唯一の方法であり、胎児発育不全の悪化の抑制にもつながることがあります。
そして、産婦人科医の下できちんと管理をしてもらうことも重要です。
妊婦健診をきちんと受診し、しっかりと周産期管理を受けましょう。


