糖代謝異常のある妊婦さんの周術期管理において、手術前に安定した血糖コントロールを行うことが重要です。特に血糖コントロール不良例では、手術前の妊娠36~37週での入院を考慮することで、安全に手術を受けることができます。
また、術後は各種ストレスホルモンによる手術性高血糖が起こりやすく、適切なグルコースやインスリン投与により、重症の低血糖、高血糖、ケトアシドーシスを回避することができます。
手術侵襲を受けると、体内では恒常性を維持するためにストレスホルモンが分泌されます。中でもコルチゾールとカテコールアミンといわれるホルモンは、代謝、呼吸、循環器系の機能維持に重要な役割を果たします。これらのホルモンはインスリンと拮抗的に作用するため、インスリンの効き目が低下し、血糖値が上昇する傾向にあります。この「外科的糖尿病」は一般的な周術期管理でも見られるものですが、糖代謝異常のある患者さんはより管理が難しくなります。
術前評価では、糖尿病網膜症、糖尿病(性)腎症、糖尿病神経障害、循環機能などの糖尿病合併症を評価することが重要です。
血糖コントロール不良例では、食事療法やインスリン療法で血糖を安定させた後に帝王切開を計画することが推奨され、特に妊娠36~37週以降は入院して管理することが多いです。血糖コントロールを評価する客観的な指標はありますが、術前の血糖コントロールと術後合併症の関係は正確には未だ不明とされ、糖代謝異常患者の術後管理に関するコンセンサス・ガイドラインは存在しません。
一般的に周術期の血糖コントロールが厳しいほど予後が良いように思われますが、必ずしもそうではありません。
手術後90日後の死亡率は、血糖目標値が180mg/dL以下にコントロールされていた患者群では、血糖目標値が81~108mg/dLに厳格にコントロールされていた患者群より有意に低く、必ずしも血糖値を低く管理すれば良いというわけではないことが知られており、妊婦さんの個人に合わせた血糖管理が重要であることも知られているため、主治医と相談することも忘れずに行ってください。

現在、日本では妊婦さんの血糖降下薬はインスリンしかありませんので、治療の選択肢としてはシンプルであり、まずは血糖値を測定し、適切なブドウ糖とインスリンを投与することにより、重度の低血糖、あるいは高血糖、ケトアシドーシスを回避し、母児の健康を守ることができます。
日本糖尿病・妊娠学会 編集 「妊婦の糖代謝異常診療・管理マニュアル第3版」 MEDICAL VIEWより転載 一部改変


