妊娠中、母体の内分泌・代謝系の変化は、胎盤を通じて胎児に影響を与えます。
母体の糖質代謝は脂質代謝と密接な関係があり、妊娠後期に起こるインスリン抵抗性は糖質代謝と脂質代謝の両方に影響します。
糖質代謝は胎盤を通して赤ちゃんに栄養を供給するのに役立ち、脂質代謝は妊娠前半は脂肪合成、後半はインスリン抵抗性のために脂肪分解が行われます。脂肪分解によりトリグリセリドや脂肪酸が生成され、母体の食事摂取量に加え、母体と乳児のエネルギー源となります。
妊娠中の妊婦では、食後高血糖と高インスリン血症が観察され、血糖上昇に基づくインスリン反応が高いことが示されています。インスリン抵抗性は、妊娠中の糖質代謝の特徴であり、高血糖があるとインスリン値が高くなります。一方、空腹時のインスリン値は食後と大きな差はありませんが、血糖値はむしろ低くなります。これは、胎児へのグルコースの供給と、妊娠による母体の循環血漿量の増加が一因です。
インスリンは炭水化物だけでなく、脂質やタンパク質に対しても調節作用があります。妊娠後期には、インスリン抵抗性やヒト胎盤性ラクトゲン(hPL)、成長ホルモン(GH)、グルカゴンなどの抗インスリンホルモンが脂肪分解を促進し、空腹時の高脂肪血症が生じます。
遊離脂肪酸はグルコースよりも胎盤を通過しにくいのですが、胎児の主な栄養素であるグルコースとアミノ酸に添加されます。そのため、妊娠後期にはインスリン抵抗性が生じ、グルコース消費量が減少し、空腹時の血中グルコース濃度の低下により脂肪分解による脂肪酸の動員を促進し、高脂血症になります。
遊離脂肪酸の酸化はエネルギーを供給し、母体のグルコース利用を節約するため、母体と胎児にとって客観的なグルコースと脂質の代謝の変化となります。
脂質代謝は糖質代謝と密接な関係にありますが、妊娠中の脂質代謝の変化は、脂肪同化と脂肪異化の2段階で特徴づけられます。
妊娠前半では、母体の中性脂肪合成と脂肪蓄積量が増加し、脂肪生成が促進され、脂肪分解が抑制されます。これはいわゆる同化状態で、インスリン、コルチゾール、プロゲステロンなどのホルモンが徐々に増加することで促進されます。
妊娠後期になると、脂肪生成はまだありますが、脂肪分解が亢進する、いわゆる異化状態となり、脂肪分解の亢進はインスリン抵抗性やhPLなどによるものと考えられます。肝臓でのケトジェネシスの亢進は、エネルギー獲得のためのFFAの酸化が進むためです。
妊娠後期になると、母体の脂肪細胞にトリグリセリドの形で蓄積された脂肪は、ホルモン感受性リパーゼ(HSL)により遊離脂肪酸とグリセロールに分解され、血液中に放出されます。そして、遊離脂肪酸は肝臓でβ酸化され、ケトン体も生成されます。ただし、脳にはグルコースだけでなくケトン体も必要なので、ケトン体も重要な栄養素であることを忘れてはいけません。

妊娠糖尿病・妊娠学会 編集 「妊婦の糖代謝異常診療・管理マニュアル第3版」MEDICAL VIEWより転載一部改変


